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がん医療のゲノム解析による新たな展開

これまで3回にわたりがん保険に焦点をあてた記事を紹介してきましたが、その最終回として今回はがんのゲノム配列解析が、がんの検出・特定・細分化・モニタリングにおいて強力な手段を提供することで、どのように早期診断と個別化医療の改善の道を切り開いているのか、またこの驚くべき発展が生命保険会社や医療保険会社にどのような影響を与えるかについて、チーフメディカルオフィサーのアヒム・レーゲナウアー博士の解説をを紹介します。

本コンテンツは簡潔なフォーマットで解説されていますので、複雑な医学的説明を読み解いたり、センセーショナルな見出しを解釈する必要はありません。

また、アジア太平洋・ライフ&ヘルス・クライアントソリューション開発責任者のブライス・シェパードが、生命保険および医療保険業界がこれらの変化にどのように対応していけばよいかについて、市場に関する貴重な洞察とソリューションを解説しています。

ゲノム解析とは?

  • がん患者の治療効果や臨床結果は非常に変化しやすく、予測が困難な場合が多くなっています。
  • 一方、がんは遺伝子疾患であり、細胞の機能・成長・分裂を制御するDNA/ゲノムの変化によって引き起こされます。
  • 腫瘍のゲノム解析を行うことで、がんに特有の遺伝子の異常(変異)を検知することができます。この知識があれば、医師は患者に適切な薬剤、治療法、臨床試験をより的確に判断することができます。このようにしてゲノム解析はがんの個別化医療を可能にします。個別化医療の進歩については、本連載の第3部「がんの標的治療 – 個別化医療への道」をご覧ください。[1]
  • ゲノム解析はまた、リキッドバイオプシーを可能にしました。リキッドバイオプシーとは、簡単な血液検査でがんを発見・特定する画期的な方法で、一部の末期がんに利用されていますが、複数のがん検査を含む幅広いがん検診への利用が期待されています。リキッドバイオプシーの詳細については、本連載の第2部「がん診断 – 早期発見と罹患率・死亡率への影響」をご覧ください。[2]
  • リキッドバイオプシーと個別化医療により、患者は治療開始時だけでなく治療計画のすべての段階で、効果的で個別化されたがん治療を受けることができるようになりました。
保険商品の進化

ゲノム解析が可能になったことで、社会に貢献する大きな可能性を秘めていると言われてきました。

生命保険・医療保険業界では、ゲノム解析による進歩を商品やサービス、プライシング、アンダーライティングにどのように利用するか、あるいは利用する予定なのかについて、いまだに激しい議論が続いています。一方、パーソナライズされたヘルスプランやウェルネスソリューションなど、実用的なソリューションが登場し始めています。

特にがんの検診・診断・治療の分野では、ゲノム解析がこの業界の道を大きく開いてきました。例えば、患者の予後を改善するための個別化された治療法や医薬品などの分野で、より利用しやすく手頃な価格を実現しています。

 

現在の使用状況と展望

  • 2017年には、米国の腫瘍医の75%以上が治療方針の決定にゲノム解析を使用したと報告しています 。[3]
  • しかし現在、ゲノム解析は進行がんの一部のサブセットに対して利用されているケースを除き、広く臨床利用されていません。これは、高額な費用や検査結果が出るまでに長い時間を要することなどが影響しています。
  • 費用は400~1,000米ドルです。しかし、バイオテクノロジー企業がこれまで以上に速く安価な解析技術を開発していることから、今後数年間でコストはさらに低下し、定期検診の価格に近づいていくと予想されます。[4]
次なる差し迫った変化

ゲノム解析へのアクセスが増え、コストが下がることで、先進的な医療技術が飛躍的に進歩しました。これは、現在の新型コロナウィルス感染症のパンデミック下で、ゲノム解析とm-RNA技術により記録的な速さでワクチンが開発・製造されたことにも象徴されます。

保険の観点から見るとこの影響は、がんの標的治療とそれに関連する個別化医療プランの普及にも見られます。安価なゲノム解析によってこれらの治療法がより容易に利用できるようになると、我々が設計する商品はこれらの最先端の個別化された治療法に関する内容を反映し続ける必要があります。

最初に起こるであろう変化は、商品の定義や言葉の変更です。これは保険金の支払いを特定のがんや個人に合わせた治療に沿って行うことを目的としています。一方、これは、顧客により受け入れやすい商品を目指して説明を簡素化するという今日のトレンドに反することになります。

 

急速な進歩

  • 英国のNHSは、2019年10月1日より、世界で初めてゲノム医療を定期的に提供する国民健康保険サービスを開始しました。[5]
  • 日本では、がん学会が次世代解析を用いた遺伝子パネル検査に関するコンセンサス・クリニカル・プラクティス・ガイダンスを発行しました。[6]
  • 米国では、調査対象となった1万人のがん患者のうち37%が、少なくとも1つの治療可能な変異を有していたことが報告されています。[7] これは、特定のがんを標的とした抗がん剤で治療できる可能性があることを意味しており、そのほとんどが新しい免疫療法に由来しています。米国では現在、特定のがんに対するゲノム解析が全がん症例の約5%に対して行われており、この割合は今後増加すると予想されています。
  • 例えば、FDAは最近、FoundationOneR CDx [8]と呼ばれる遺伝子検査パネルを承認しましたが、その価格は約5,800米ドルです。リキッドバイオプシーやマルチキャンサーテストの詳細については、本連載の第2部「がん診断 – 早期発見と罹患率・死亡率への影響」[2] をご参照ください。

生命保険会社への影響

  • がん死亡率の改善:これらの進歩により、今後20年間で死亡率が大幅に改善すると予測されています。
  • 生命保険・医療保険におけるゲノムをベースとしたがんの定義:これまでのがん医療は、がんが臓器や組織に特異的な病気であるというパラダイムに基づいて行われており、それが重大疾病などの医療保険の引受や給付の定義の基礎となっています。今後は、異なる臓器のがんに存在する共通の変異を対象とした、よりゲノムに近いがん治療へと変化していくことが予想されます。最終的には、がんは主に遺伝子のバイオマーカーによって定義され、局所性や組織性によって定義されることは少なくなるかもしれません。
  • アンダーライティングを複雑化させる新たな細分化:がんは多くの予後グループに細分化される可能性があり、アンダーライティング・ガイドラインは複雑になります。
  • 標的治療によるがん治療薬/治療法にかかるコストの増加: 標的治療によるがん治療薬や治療法にかかる費用は、医療費のインフレを大幅に上回る急激な上昇が予想されます。[9]
  • 不確実なタイムライン:これらの変化のタイミングと大きさは、主にがんの標的治療薬への臨床的アクセス(入手可能性とコスト)に依存します。
保険商品とアンダーライティングの進化

この分野の研究が進むにつれ生命保険および医療保険商品は、がんの結果と顧客の期待という観点から、新たな状況に対するアクセシビリティと整合性を確保できるよう対応していく必要があります。すなわち、検診・予防・診断・動的な治療・各個人に合わせた回復サービスを提供するための包括的ながん商品とエコシステムの一環として、保険業界が遺伝学およびゲノム解析と背中合わせに位置するという未来です。

そのためには、給付の定義(トリガー)、構造、それに付帯するサービスの内容(提供されるサービスの内容)の観点から、保険商品の設計方法を大幅に変更する必要があります。それに伴い、アンダーライティングも変化し、現在のコホート(集団)ベースの遡及的なアプローチから、よりパーソナライズされたダイナミックなデータ駆動型のアプローチへと根本的に進化するでしょう。

例えば、PartnerReでは現在、革新的で柔軟な複数回支払いの給付ソリューションを開発中です。

しかし、遺伝子的に定義された新たながんのサブクラスに対応するために保険商品の文言を変更したり、上述のようなインパクトと治療法に沿ったソリューションを導入したりすることは、保険金の支払いを簡素化し、顧客満足度を向上させるという点では、どちらも逆行する可能性があります。このようなダイナミックでパーソナライズされた保険をどのように顧客に提示し、顧客がどのように反応するかが鍵となります。また、このような進化を遂げていく中で、「未知のもの」から可能な限り保護するために、どのように商品を再設計するのか、つまり、柔軟性と将来性を考慮して構築することが最も重要であると考えます。

 

10年後の予測

  • 今後10年以内にほぼすべてのがん患者が腫瘍組織のゲノム配列を調べることになり、より個別化された効果的ながん治療への道が開かれることはほぼ確実です。
  • いくつかのがんは治療可能になるでしょう。また、慢性疾患が緩和されるがんもある一方で、これらの進歩があったとしても治療が難しいがんもあるでしょう。
革新的な保険商品のエキサイティングな未来

この分野は、社会の健康を促進するために多くの期待と可能性を秘めており、将来どのような保険商品を提案できるのかについて大きな期待を寄せずにはいられません。

この業界にいる我々は、その期待を満たす保険商品の作成に焦点を当て、ベストを尽くす必要があります。すなわち、リスクについての明確な見解を持ち、インテリジェントな製品イノベーションを通じてそのリスクを低減または分散させること、そして何より大事なのは、顧客に高い価値を提供することです。

PartnerReは専門知識を有しており、革新的ながんの提案に強い関心を持っています。貴社のプロテクション商品群について、また、がんのベネフィットがどのように進化するかについて、意見交換できることを心待ちにしております。

 

本記事は、がんの進歩に関する記事をご紹介する4回にわたるシリーズの最終回です。がんのグローバルトレンドがんの診断がんの標的治療をテーマにした過去の記事は、PartnerReのウェブサイトでご覧いただけます。

筆者

Achim Regenauer, Chief Medical Officer, Life & Health
Bryce Shepherd, Head of Capabilities Development, Life & Health, APAC

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私どものアプローチは、専門知識の共有ならびにクライアントの成功を創造するというパートナーシップをベースとしています。今後、具体的なソリューションへと繋いでいけるよう、ご意見を頂戴できますと幸いです。

この記事は、一般的な情報提供、教育、議論のみを目的としています。また、PartnerReまたはその関連会社の企業姿勢、意見、見解の全部または一部を必ずしも反映するものではありません。
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